05.地域医療の「三方よし」 ~患者よし・医療者よし・地域よし~

「三方よし」という理念があります。これは、古く江戸時代の近江商人の考え方に由来するもので、 商取引が、その当事者の売り手と買い手だけでなく社会全体の幸福につながる、すなわち「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」となることを求める考え方です。
 この考え方が、現代の非営利組織や企業の活動において見直されています。サービスを提供する当事者となる組織や企業と、 直接の受益者である利用者・消費者だけでなく、地域社会全体にとってプラスとなる活動となり、3者のなかには損をするものなく、Win-Win-Winの関係になることを目指します。

在宅医療においては、地域医療を俯瞰的にとらえ、医療者と患者だけでなく、地域のケアスタッフと協働することで社会全体に価値をもたらしていくという視点が必要です。 部分最適ではなく、全体最適化を目指すということです。

そのために患者さん・ご家族が、医療者に頼りきりになるのではなく、自分たちでできることをやれるよう、 自立し、周りが助け合っていく、という「セルフメディスン」の概念が大事になってきます。

在宅医療の環境は、各医療の専門スタッフや設備を備えた病院と異なります。病院に入院しているときのように、 容態が急変したからといって、医師が数分以内で駆けつけることは、残念ながらできません。 だから、患者さん本人・ご家族ができることをする、地域の介護スタッフの方々にも、緊急時の対応について理解していただく、というのが基本的な考え方となります。

これを実現していくためには、患者さん・ご家族、あるいは地域の介護スタッフへの教育や権限委譲が必要です。 ただ、単純に権限委譲をするといっても簡単にはできません。患者さん・ご家族、地域のスタッフが意思決定をするのに必要な情報を共有することによって、 各自が現場で考え、行動することができるようになると考えています。

意思決定の質を高めていくには、有用かつ信頼性の高い情報を共有する、実行可能な代替案を検討する、 考える枠組みを知る、明確な価値判断基準を持つ、関係者全体の納得してやる気をもつといったことが必要になってきます。

医師は、病気の経過や今後起こりうる可能性の高い病状や対応策について、患者さん・ご家族だけでなく、ケアスタッフとも共有しておくことが求められます。

「この先どうなるのか」「いざというときにどうするか? しかしその“いざ”は何なのか?」 --それが患者さんにとって大きな不安となります。それを知っておくだけで安心して暮らすことにつながっていくと思います。

その上で私たちは「いつでも電話による相談を受ける」「必要があればすぐ駆けつける」と約束することで、患者さんに安心感を持っていただけるのではないかと思っています。

こうして、地域への権限委譲とセルフメディスン、それに前回お話した水道の整備によって不安を支える環境を実現していけば、 結果として、地域全体が良くなるのではないかと考えます。(2008年/舩木良真)