07.在宅医療の意思決定と情報共有 ~衆知を集める~

在宅医療は“生活の場”で提供されるもので、前回も述べたように、そこに発生する問題は医療的なものだけにとどまらず、 精神的、経済的、介護環境的、家族との関係などまで含まれます。問題の解決に当たっては、患者さん本人の意思がまず尊重され、 さらに家族やケアスタッフなど関係者全員の納得のもとに遂行されることが理想です。しかし、そこにはさまざまな価値基準が存在し、 治療選択の意思決定が、必ずしも医療的根拠によって決定されるとは限りません。また、誰が何を考えるかで、意思決定は大きく変化してきます。

たとえば「延命」の問題について考えてみます。

患者さん本人に「自分は延命したいか」という質問を投げかけると、1人称の「自分」はそれほど延命を望んでいないことが少なくありません。 しかし家族に「自分の親や子供、兄弟の延命を望むか」と問うと、できるだけ長く一緒にいたいという気持ちが強く、一般的に延命を望む率が高くなります。 2人称の「家族」では判断の基準が変わってくるのです。最後に3人称である客観的な第三者に問うと、その職種の属性が反映されやすくなります。 医師ならば、「治癒・延命」を使命とすることに携わってきた経験から延命に重きを置くことが多いかもしれません。

異なる立場で、異なる価値観や知識・経験をもつ人たちは、同じ状況の中でも別のものが見え、自らの信念にそって判断を下します。 ひとの生命や人生に関する重大な決断に際して「本人にとって最善の選択をしよう」という理解と合意があったはずでも、各関係者の考え方は少しずれることがあります。

病院には、「救命・延命」という明快な価値基準が存在します。また、各医療スタッフによる情報共有の方法も決まっています。 電子カルテが整備されていれば、病院内のどこにいても、ある患者さんの情報にアクセスすることができます。 さらに、その組織形態が医師を頂点とするヒエラルキー型であるため、病院医療における意思決定は、比較的わかりやすい論理の中で行われます。

病院とは違ってはっきりした「医療」の基準が設定しにくい在宅医療では、「患者さん本人」の価値観を尊重するという姿勢をより明確にする必要があります。 関係者が集まってお互いの意見を交換し、みんなで物事を決めていく「衆知を集める」という考え方が重要です。

介護保険のサービスは、情報共有と連携をベースとするコンセプトの上に設定されました。 病院を一歩外に出て、地域において提供される医療・ケアにおいては、「患者さん中心」をより強く意識した情報共有と意思決定プロセスの上に、 在宅かかりつけ医のほか、訪問看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなど介護領域のスタッフらが対等な立場でパートナーシップを組み、 それぞれの専門性を活かして協働することが望まれます。(2008年/舩木良真)