09.終末期のケア ~「死」へのソフトランディング~

どこで、どんな病気で、誰と最期を迎えるか考えたことはありますか?

人は皆、いずれ死を迎えます。しかし多くの人は「死」とはどういうものなのかよくわかりません。 生きている私たちの誰も、体験したことがないのですから仕方ありません。また、ごく当たり前に人の死を身近に見ることが少なくなった現代、 「死」をどうとらえるかを考えるきっかけがないため、どんな最期を迎えるのか明確なイメージを持っている人は少ないのではないかと思います。 自宅で家族に見守られて最期を迎えたいと、漠然と希望していても、病院に入院し、ただ勧められる治療を受けて亡くなる場合もあるかもしれません。

3人に1人ががんで亡くなる時代になりました。医学の発展によって必ずしもすぐに「死」に結びつくわけではありませんが、 やはり「がん」という病気は、多くの人たちに死への恐怖を抱かせます。
 がんで“余命6カ月”と診断されれば、それだけで動揺し、一気に人生に対する希望を失ってしまう人もいるかもしれません。

「終末期」とは、誰がどのように決めるのでしょうか。

アメリカでは医師が“余命6カ月”と診断した時点で「終末期」とされます。 しかし前回も述べたように、がんの場合、最期の1~2カ月前までは、普通に日常生活を送れる身体の機能は保たれます。 またその身体の機能が5カ月目に落ち始めるとは限りません。医師にも余命を正確に推測することはできないからです。 普通の生活を保てる間は、「終末期」という言葉に動揺せず、希望を持って過ごしていただきたいと思います。

ただし、この期間は否応なく「死」と向き合うことになります。希望を持つと同時に、厳しい現実も見つめ、最期を迎えるための準備期間でもあります。

在宅医療は、患者さんを中心として、患者さんの意思や価値観を尊重しながら提供されることが望ましいと述べてきました。 だからこそ、患者さん自身がどんな「死」を迎えたいかイメージを持っていただきたいと思います。

終末期をどう過ごすかは、医師が決めるのではありません。医師は、患者さんの病気によってどのような症状が出る可能性があるのか、 どのような経過をたどって終末期に至るのか、その過程でどんな治療やサポートが必要となるかなどを予測し、患者さん本人やご家族とその情報を共有します。

飛行機にたとえれば、「終末期」を迎えることは着陸体制に入ることだと思います。 故障しても“飛び続けたい”と踏ん張りつづけて突然、墜落してしまうのではなく、不具合を見つけた時から、 医師と患者さんが一緒になってゆっくり軟着陸できることをめざします。

患者さん本人が怖がることなく死と向き合い、最期まで「いい人生だった」と満足できるよう、 ご家族にとっても愛する人が「急に逝ってしまった」という感覚に陥らないように、私たちは支援していきたいと思います。 (2008年/舩木良真)