10.医師の信頼を回復したい ~信任とインフォームド・コンセント~

「医療崩壊」という言葉を、最近よく耳にするようになりました。医師不足、医療過誤、高齢者医療の切り捨て…… これらの問題の根本的なところに、医療者と患者さん・ご家族との間の信頼関係が失われてしまっていることが挙げられるのではないかと私は考えています。
 信頼関係が構築されていないがために、どんなに医師が一生懸命やっても感謝されず、逆にミスを犯せば訴訟問題に発展するリスクを常に抱え、 マニュアル通りの処置を遂行することで精一杯となることがあります。

一方、患者さんの側も、医師を信頼できずにその診断や処置に疑心暗鬼となり、よりよい医療を求めていろいろな医療機関を訪ね歩く 「ドクターショッピング」をせざるを得なくなり、ささいな疾患でも大学病院の専門医を受診する人もいます。

このようなことが度々起こるようになれば、地域医療の本来の機能は失われ、結果として医療のコストもどんどん上がります。

昔の医療には医師・患者間に「信任」という概念があったと聞いています。文字通り「信じて任せる」という関係です。 ところが今は、「インフォームドコンセント(情報を提供して同意を得る)」という考え方が重視されるようになりました。 任せてもらうことと、同意を得ることには、大きな開きがあるように思います。

病院で重要な検査や手術などを受ける際には、難解な説明書を手渡され、署名して同意することを求められます。 しかし「何が書いてあるのかよくわからない」「こんなときに最悪の事態まで説明されても余計に不安になる」、そんな思いを経験された方もいるのではないでしょうか。

医師と患者さんの間の医学的な情報量には、非常に大きな差があります。また、たとえ患者さんががんばって全ての情報を集めたところで、 例えば手術を受けるならば、医師に任せるしかありません。

そんなとき、全面的に信頼してもらえる医師になること、それが私たちの目標です。

医師と患者さんの間の本質的な信頼の回復、これが今の医療には必要ではないかと考えています。

そこで問われるのは、今、目の前にいる患者さんのことを本気で考える姿勢だと思います。医師としての機能を確実に遂行したとしても、 その人に真剣に向き合っていなければ、相手の人は不満を感じるでしょう。最終的に好ましい結果にならなかったとしても、 医師がプロフェッショナルとして職を賭け、ひとりの患者さんに対してベストを尽くすという姿勢をもっていれば、信任を得ることは可能なのではないかと思います。

在宅医療では、患者さんと1対1で向き合うチャンスがあります。患者さんの生活の場を訪れ、医学的な問題だけではなく、 心理的な問題や社会的な問題まで含めて相談に乗り、患者さんをひとりの人間として尊重し、関係を築いていく中で、 「信頼」していただけていると感じることが最大の喜びであり、医師として診療を続けるモチベーションとなっています。

在宅医療は、現在の医療で忘れ去られつつある医師と患者さんの信頼関係の回復、地域医療の再生のカギを担っていると思います。 信頼される組織・人となり、地域の皆さんと共に働いていきたいと思います。(了)(2008年/舩木良真)