07.組織と個人の成長 ~暗黙知と形式知の共有~

複数の医師が、さまざまな情報を共有していくには、ITの活用だけではなく、実際に顔を合わせて話し合う場も必要だと考えています。
 私たちは毎日朝夕の診療カンファレンスのほか、勉強会を行い、医師全員が集まる機会をつくっています。勉強会では、 メンバーが実際にかかわった症例をもとに、医療的な処置について、あるいは意思決定に迷ったケース、連携スタッフとの間に起こった事柄などについて全員で話し合います。 同じようなことが起こった場合、自分ならどうするか、どのような対応が患者さん本人にとって一番いいのか議論し、課題が浮かび上がれば次回以降の改善策を一緒に考えていきます。

また、このような議論の場を活用するために、各医師が日ごろの診療のなかで、疑問に感じたことなどをメモしておくスペースが電子カルテにもつくられています。 「家庭医は、1回の診療でだいたい30くらいの疑問を持つ。しかし、そのうち実際に調べるのはせいぜい1つくらい」というデータがあるそうです。

医師ひとりで行動する在宅医療では、診療現場における疑問をすぐに解決することはなかなか難しいものです。あとで調べようと思っていても、 次の患者さんのところへ行ったら忘れてしまいます。しかし、それらをきちんと記録しておけば、後で自ら調べることもできますし、勉強会のテーマにして、 同僚と話し合ったりすることも可能です。

最近では「wiki」のシステムを使ってWeb上で共有知を構築していく試みも始めました。電子カルテやwikiといったITを活用したツールと、 実際のカンファレンスの併用により、各医師の持つ知識や疑問を整理し、組織全体の知識として蓄積していくことが、私たちのグループプラクティスにおける試みの一つです。

知識の中には、個人の経験や直感に基づき、言葉ではなかなか表現しにくいものがあります。例えば自転車の乗り方を視覚的、 体感的に学ぶことは可能ですが、言葉で説明するのは非常に難しいものです。こうした知識を「暗黙知」と呼びます。 それに対して言葉や絵など形あるものとして明確に可視化できる知識を「形式知」と言います。

私たちは基本的な知識、価値観は共有し、なおかつ現場では個人を尊重し、自律的に行動できる組織を目指しています。 そのために、カンファレンスで「暗黙知」の共有を行い、ITで「形式知」の共有を行います。

可能な限りの知識をITで可視化すると同時に、一つの価値観を共有する医師同士が対等な立場で議論し、 語り合う過程において、一人ひとり、そしてチーム全体が成長していけるように、と願っています。(2008年/舩木良真)